守輪咲良活動日記No.30「二重の不実」の不実?

「二重の不実」の不実?

 ~ずうっと気になっていること・・・~

 演出家は、一体何を破壊したかったのだろうか? とにかくまだ若いようで、日本劇団協議会主催「次世代を担う演劇人育成公演」の育成対象者になっている。先日観たマリヴォーの「二重の不実」の話だ。場内に入ると、鎖につながれた歪な体勢の村娘シルヴィヤがすでに舞台上にいる。動くとジャラジャラと音のする重い鎖は、四角い舞台の回りのレールに取り付けられている。そしてシルヴィヤは最後まで一度も鎖から解放されることなく芝居は終わった。一国の君主である大公は、汚れたタオルを首にかけ、ジャージの上下を着た身体のしまらない大きな労務者風の男で、バカでかいぬいぐるみを抱えている。

 マリヴォー「二重の不実」では、大公が村娘に恋をして、お城に拉致してきたところから始まっている。ところが娘は恋人アルルカンと愛し合っていて、大公の思うようにはならない。そこで大公家臣の娘フラミニヤの策略により、アルルカンを拉致してきて二人を引き合わせたうえ、素敵なドレスや美味しいお酒や料理などが与えられ、同時にフラミニヤはアルルカンの同情を惹き始め(彼女の作意は本意へと変わっていくのだが)、作戦はついに功を奏して二人の心変わりに成功する。村の若者たちは見事に洗脳され、自分たちの心変わりを正当化しながら、新しい恋人とハッピーエンドで終わる恐い芝居だ。政治色の濃い作品でもあり、自然のなかで育った素朴な若者が物質豊かな都会に染まっていく様にも取れて、マリヴォーの作品のなかでも私の好きな作品の一つだ。2006年に静岡芸術劇場で観たロシアの劇団の「二重の不実」はまさに政治色の濃い衝撃的な舞台だった。

 さて、今回私の観た「二重の不実」は芝居の始まりからお終いまで登場人物たちは、みな不機嫌に怒っていて怒鳴りっぱなし。シルヴィヤはすっかり声を嗄らしていた。同伴した私の連れは、芝居がはじまったと同時に、耳をふさぎ目を落としてしまった。「さあ、言葉のレッスンをはじめよう」というパンフのキャッチ・コピーはどうなっているのか。
 いわゆるマリヴォーらしさ、繊細さ洗練された優雅さなどは欠片もない。演出家は意図的にマリヴォーらしさを破壊したかったのか? しかし、本国フランスでは80年代のマリヴォーブームのなか、反演劇的な破壊的な演出で上演されることがあったにしろ、日本ではこれまでのマリヴォーらしさの何たるものかさえ一般には知られていない作家だ。伝統的なマリヴォーらしさを破壊して何か意味があるとは思えない。あるいは古典そのものを破壊しようとしたのだろうか? パンフレットを読んでも皆目演出の意図は分からない。自己紹介として「今日と古典作品の持つパラダイムとの異同から現代という時代と人間の本質を探究しようと作品創りをしている」と書かれている。なるほど! しかし、舞台上の実際はどうなっているのか? 作家によって書かれた戯曲が土台にあって演出しているわけで、その戯曲を破壊するにしても、何らかの演出意図が伝わってこなければならないだろう。どうやら演出家は「二重の不実」を演出するというより、創作劇に近い演出をしていたのだと思う。が、創作劇的演出としてみたにしても、シルヴィヤが芝居の流れのどこかで鎖から解き放たれ何かが変化するならまだ受け取りようがある。芝居が最後まで変化しなければ、演出家にとって「人間の本質の探求」とは一体何のことを言っているのか。

 ちなみにマリヴォー劇に登場する人物たちは、大体みな普通に善良な人たちだ。
「贋の侍女」だけはちょっと違う作品だが、「二重の不実」も例外でない。大公でさえ良心を兼ね備えた人物である。はなからただ意地悪な台本の読み方をしてもマリヴォーは上手くいかない。「非情な人マリヴォー」とは、マリヴォー読解の奥の深いところから出てきた言葉だ。今回の演出家にとってはどうでもいいことなのだろうが、マリヴォーを愛する者としてひと言つけ加えよう。

 古典の作品とはいえ、マリヴォー戯曲の構成には実に面白さがある。新しささえ感じる。登場人物の名前が記号のようになっていることも一つ。また、芝居の幕開きは突然のセリフではじまり、いきなり切れて終わるのも面白い。そして終幕の唐突なハッピーエンド! 表向きの「めでたし、めでたし」の裏に、決してそれだけで終わらない、作家の語らない何か別なものが残る。マリヴォーはきわめて現代的な作家なのだ。

 さて、今回のパンフレットに書かれている恋愛に草食化した男子の話や恋愛そのものが自由になった現代の話などが、舞台上の登場人物の怒鳴り合いとどう結びつくのか・・・分からないことだらけだが、演出家のプロフィールに「リアリズムを追求する」の一文を読んでひっくり返りそうになった。演出家は観客に芝居をどう観てもらいたかったのだろう?
                                

(守輪咲良)


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SAKURA ACTING PLACE2010年10月参加者募集

【SAKURA ACTING PLACE】

2010年10月 参加者募集!

演技のオーソドクシィを学ぼう!
魂の演技とは? また、そのテクニックとは?

 ニューヨーク・アクターズ・スタジオのメソード演技を基盤に「世界に通用する演技」を目指す【SAKURA ACTING PLACE】は、10月4日よりの第2期(3ヶ月単位)の参加者募集を開始しました。

 俳優修業に終わりはありません! 【SAKURA ACTING PLACE】は、すでにプロとして活躍している方には、長年のうちに身についた演技のくせを取り去り、さらにテクニックを磨く場であり、またこれから演技の勉強を始める方には、俳優として必要な演技の基礎から応用までの徹底した指導が受けられる、真剣に演技を学ぶ人たちのための場なのです。その思いを込めて、この度、会員制と致しました。ひとたび会員になったあとは、本人が退会しない限り永久会員とし、その後入会費は不要です。各クラスとも3ヶ月単位(ただし5週目がある場合はお休み)でおこなわれます。原則として途中参加はできません。また、各クラスの見学は可能ですが、申し込み制です。

【内容】

ベーシック・クラス:(水曜 18:30~21:30)
ACTOR(俳優)はACT(行動)する人! [art of living]が基盤です。私たちの周りにあるものを意識してみることからはじまります。どんな発見がありますか? さあ、身体をつかって動いてみましょう!

エチュード・クラス:(月曜 13:30~16:30) 
なぜそこにいるの? 何をしているの? 問いかけることから集中へ。「与えられた課題」からあなた自身が状況を創っていきます。あなたの演技は、あなたによって創られていきます!

エクササイズ・クラス:(月曜 18:30~21:30)
俳優の楽器づくりとは? 心身のリラックスから集中へ。生きた感覚から表現へ。感情表現に必要なコントロールからテクニックへ。固まった概念を壊し、新しい表現への可能性を徹底して探ります。他に、コミュニケーションなど。

シーンワーク・クラス:(木曜 13:30~16:30)
テキスト使用。台本の中の「与えられた状況」で何がおこっているのか? あなたはその「状況」に飛び込んでいかれますか? 「役」として、一瞬一瞬に生きるとは?       ※シーンワーク・クラスは原則として演技経験者が対象です。

【期間】
 2010年10月4日~12月23日 

【会場】
目黒区の住区センター

【料金】
入会費:20,000円
・ 1クラス(3ヶ月):30,000円(シーンワーク・クラスのみの場合、36,000円)
・ 2クラス(3ヶ月):45,000円
・ 3クラス(3ヶ月):54,000円
・ 4クラス(3ヶ月):60,000円   ※分割払は3分割までとします。

【お申し込み・お問合せ】
〒145-0066 東京都大田区南雪谷1-3-18   SAKURA ACTING PLACE

s-a-p@sakuranotayori.com、又は、03-3726-6887(FAX)にてお願いします。



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プロフィール

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Author:sakuramoriwa
守輪咲良。演出家。演技私塾「櫻塾」代表。劇集団「咲良舎」主宰。日本演出者協会会員。一般社団法人日露演劇会議・常務理事。明治大学文学部卒。札幌市出身。

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