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連載/「タバコの害について」のガイとの稽古 第2回

連載/「タバコの害について」のガイとの稽古 第2回



 「タバコの害について」のガイとの稽古 2


 俳優が、頭のどこかで「演技とはこういうもの」と思い込んで演じる演技がある。
 頭のなかに自分が創り上げたイメージがあって、そのイメージのなかで演じる。
 プロ、アマを問わず、日本にはこういうタイプの俳優がたくさんいる。
 このような俳優の目は何も見ていない。
 行動がパターン化され、声を大きくはり、セリフも動きも紋切り型で・・・等々。
 先日もまさしくそんな演技を劇場でみたばかりだが、彼の滝のような汗がなんとも痛々しかった。
 
 問題は、俳優自身、自分がどんな演技をしているか気づきにくいこと。
 また、何かおかしいと気づいても何をどうしたら良いか分からないこと。
 ベテラン俳優のなかには長年そうした演技をやってきて、どんなにおかしかろうが自分のやり方を改めたくない(改められない?)俳優もいる。ひょっとした事で客に受けたりすると、もう改めるなんてものじゃなくなる。 

 さて、今回のテキスト「タバコの害について」だが、チェーホフのヴォードビル喜劇だ。ヴォードビルとは、日本では歌や曲芸などを組み合わせた寄席演芸的なショーをいうようだが、元はフランスで興った風刺的風俗劇(歌・踊り・黙劇などが間に入る)だ。ヴォードビルを演じる者をヴォードヴィリアンと言うが、チャップリンやキートンなどを思い出してもらえればいい。彼らはヴォードビルやミュージック・ホールで人気をはくしたヴォードヴィリアンであり、のちに映画産業に入って活躍した。

 話をもどすと、つまり、ヴォードビル喜劇「タバコの害について」の主人公ニューヒンを生かすも殺すもまったく俳優次第というわけで、まずは芸達者な俳優の、ある種の喜劇的な演技が頭に浮かぶが・・・しかし、いやいや、これはチェーホフの喜劇なのだ、一筋縄ではいかない。1886年に最初書かれたものを、チェーホフは1902年、登場人物ニューヒンだけを残して新たに書き下ろしている。死の2年前だ。

 さあ、どうするっ、俳優ガイ!?

 実はガイは、昔、あるバラエティ番組の人気コーナー「○○コメディアン道場」というお笑い勝ち抜き合戦で優勝し、番組のレギュラーとなり、人気者だったことがある。その素質がニューヒンに生かされるなら面白い芝居ができるかも知れないと内心期待したものだが、お笑い経験が裏目に出るということもある。

 ガイはヴォードビル喜劇の演技を追いかけているようにも見えないのだが、いわゆる「演技とはこういうもの」タイプの演技、頭のなかにイメージされている演技が、いくら違うと説明されても、毎回、稽古で繰り返される。
 自分がこだわる頭のなかの演技をやりたいのだが、結局、身体が固まって動かず、講演で話すニューヒンのセリフに囚われて、声をはってセリフを喋る。
 その度にそれをやめさせて、何もしないで舞台に立つことから集中し直す。

 ある種の俳優にとって「何もしない」つまり「演技をしない」ことはかなり抵抗のあることらしく、要求されると怒りをあらわにする俳優が少なくない。
 ガイも以前は抵抗があったようで、すぐにはやり直せなかったことだが、今では素直にこちらの指示通りに自分の状態をもっていかれるようになった。有難い!
 ガイは「演じること」をすっかりやめて舞台に立つ。すると一瞬にして何者かがそこにいて、こちらを見ている。程なくセリフを語りはじめると、先ほどとは丸で別の、顔も声も違う存在だ。

 その時の体験を後日、ガイはこんなふうにメールで送ってきた。
 『さくらさん、それは、放った台詞が自分に返ってきて、今起こっている事のようにリアルに感じられる瞬間でした。 役としての存在感があった──』

 やっと掴んでくれた!これで次回からは稽古が変わるぞ! 
 私は密かに一人ほくそ笑んでいたのだが・・・しかし! しかし、なのだ! ガイは──、ああ、ガイは──!

 その次の稽古でのことだ! なんと、これまでやっていた「演技とはこういうもの」が繰り返されたのだ!
 こちらの驚きと大きな失望! 我慢強く、もう一度説明し直し、何もしない状態で舞台に立つところからやり直す。すると瞬く間に生きた存在が現れ、次第にセリフはいろいろな感触を伝えはじめる──。

 こんな稽古を何度か繰り返し、ある時、自分のこだわりの演技を最後までやり通したあと、ガイはその場にうなだれて「これじゃダメだ」とつぶやいた。「俺のやりたい演技は、これじゃない」!
 その帰り道だったと思う。「自分のエゴと戦ってるんだ」ガイは何気なくしゃべっていたが、これこそが数多くの俳優たちが戦う「己との戦い」だと思った。

  (つづく)


 「タバコの害について」のガイとの稽古 第1回へ


 チェーホフ「熊」の舞台写真は下記のリンクへ

 中目黒・楽屋公演 咲良舎ランチシアター「チェホンテ・ア・ラ・カルト2」舞台写真

 中目黒・楽屋公演 咲良舎ランチシアター「チェホンテ・ア・ラ・カルト1」舞台写真


 追記 2013年12月22日に、SAKURA ACTING PLACEでは体験ワークショップを開催いたします。



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プロフィール

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Author:sakuramoriwa
守輪咲良。演出家。演技私塾「櫻塾」代表。劇集団「咲良舎」主宰。日本演出者協会会員。一般社団法人日露演劇会議・常務理事。明治大学文学部卒。札幌市出身。

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